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見出し特別供覧「金日成主席と日本」   37.人道主義的な措置  39.思想と貿易は別  
日)

37.人道主義的な措置

 1971年10月31日、前日につづいて金日成主席と美濃部亮吉知事一行との談話は続けられた。

美濃部 昨夜、ここで『新しい朝鮮』という映画を見ました。ところで、この建物はいつ建てられたのですか?
主席 15年ほどになります。1955年か56年に建てました。成員の数が少ない代表団は、ここに多くとまっていました。いままで、スカルノ、シアヌーク、モディブ・ケイタ、コスイギン、周恩来など、多くの人がとまっていました。日本から飛行機にのって直接わが国にきたのはスカルノだけです。

美濃部 そのほかにもう一つあるのではありませんか。(笑)
主席 それは、まっすぐにきたのではなく、ソウルを経てきました。あの事件(「よど」号事件)当時、あなたがたも複雑だったでしょうが、われわれにとっても予想もしなかったことが起こりました。思ってもいなかった人たちがきたのに、日本の外務省から送り帰してほしいといってきました。われわれに、日本の警察の役割をはたしてほしいといってきたので、われわれは、それを認めることはできませんでした。直接きたのなら別ですが、途中で日本の飛行場に降りた時もどうすることもできなかったものを、われわれに捕らえてほしいといいました。それは、無理な要求です。自国の警察でさえつかまえることができず、また、ソウルに降りた時にも、その飛行機がそこへ行くことがあらかじめ通報されていたにもかかわらず、どうすることもできなかったのに、われわれにたいして捕らえてほしいといってきました。その学生たちは、われわれにとってなんの必要もない人たちです。かれらがわれわれになんの必要があるでしょうか。なんの必要もありません。しかし、われわれは人道主義の立場から、かれらを送り帰すことはできませんでした。送り帰せば、かれらは日本の警察に逮捕され、監獄生活を送るようになります。……将来、両国間の関係が正常化されれば、かれらも日本に帰るでしょう。………われわれにとっても、かれらの将来の問題が心配の種です。

美濃部 みなさん方には大変ご迷惑をかける問題です。
主席 われわれがかれらを送り帰せば、日本で裁判にかけられるだろうし、そうかといって、こちらにいつまでもおいておいても、なんになりますか?すでに2年あまりの期間がすぎました。かれらが年をとれば、家族のこともいっそう心配になるでしょう。
美濃部 「よど」号事件に際して金日成首相がとられた措置は、大変適切で、しかも人道主義的な措置でした。ですから、日本国民の大部分は、金日成首相に感謝しております。………
主席 あまり緊張しないようにして下さい。わたしも外国を訪れたことがありますが、行けば方々につれてゆかれるので、疲れる時が多いです。招待者のいうことを聞かなければならないし、行くところにはみな行かなければならないので、疲れた時が多々あります。しかし、あなたは、不便なことがあれば、いつでもおっしゃって下さい。そうすればあなたのいわれる通りにしてあげます。散歩なさってはいかがですか。コスイギンは、歩いてチェスン台に登りました。ここは反動派もいないし、空気もいいです。汚れた空気がありません。

美濃部 東京にいる時にくらべれば、本当に楽しく過しております。この迎賓館も都知事の公邸にくらべれば、本当に立派ですし、食事もおいしい、空気もきれいですし、水も澄んでいます。東京では、わたしは、いろいろな問題で悩んでいたのですが、こちらへきてからは大変愉快に過しています。
主席 ありがとうございます。あなた方が満足しておられるので、招待者としては大変うれしいです。それに、食物で口に合わないものがありましたら、おっしゃって下さい。そうすれば、ほかから料理師を呼んででも作ってあげことができます。

美濃部 どうもありがとうございます。ところで、わたしたちがこちらへ来る直前に、東京都内では、ゴミ処理問題が大問題になっていました。東京では、毎日1万3000トンのゴミが出るのですが、これをどう処理するかというのが大問題なのです。わたしは、いまや東京のような大都市ではゴミとの戦争≠宣言しなければならない時期にきたといったのですが、わたしが出発したあとに、その問題がどうなったのかが心配です。汚水は、下水道を通して流して処理していますが、ゴミが問題です。ゴミ処理のために利用してきた東京湾の埋立てもすでに限界にきており、しかもゴミの増加率は急速です。もちろん、焼却炉をつくればよいのですが、それが住民に大きな被害をあたえることはなくても、住民はその近所に住みたくないといいます。さらに、焼却炉の建設を予定している地域の地主がこれに反対します。なぜなら、その近所に住みたいという人がいなくなるので、地価が下がるためです。ゴミの問題をはじめ、大都市問題解決の基本は、土地問題にあるといえますが、かねてからわたしは、東京が社会主義諸国でのように土地が国有化されていれば、このような問題はおこらないのではないかと考えました。わたしは、こちらにきて、このことをいっそう痛切に感じました。

39.思想と貿易は別

小森 昨日、金日成首相は、日本との貿易を歓迎すると申されましたが、これと関連して、二つの問題についておたずねしようと思いますが、よろしいでしょうか。
主席 どうぞ、おっしゃって下さい。

小森 申し上げます。第一に、日本の商社の中には「韓国」と取引きしている商社があります。中国は、このような商社とは貿易をしないという立場を明らかにしました。貴国の政府においても、このような原則を堅持されるのかどうか、金日成首相は、これについてどうお考えでしょうか。
 第二に、貿易をすすめる方法としては、現在中国との間でおこなっているように、日本側で特定の貿易機関をつくり、それを通しておこなう方法と、個々の商社同士で取引をすすめる方法があります。わたしたちの意見は、ある1か所の機関を通して行なうのはどうかと思うのですが、貴国政府は、これについてどうお考えなのか知りたいと思います。いうまでもなく美濃部知事は、社会党と共産党の支持をうけていますが、財界の指導者の中にも親しい人が何人かいます。その人たちは、美濃部知事と個人的にたいへん親しいのですが、その多くは、美濃部知事の学生時代からの親友なのです。従ってわたしたちが日本に帰って朝鮮民主主義人民共和国を訪ねて知り、或は感じたことがらを話せば、その人たちに一定の影響をあたえることができるでしょう。同時に、いま中小企業がドル危機≠フ波を受けて新しい市場を求めて汲々としています。美濃部知事の発言は、かれらにも影響をあたえるものと思います。このような意味でわたしたちは、さきほど申し上げました二つの問題についての貴国政府のご見解を知りうればと思っています。

主席 問題は、周恩来総理の4大原則のようなものをかかげるかということですが、われわれとしては、そういったことについて公式にのべたことはありません。周恩来総理は、朝鮮を訪問したあと4大原則というものをだしましたが、周恩来総理が、これを発表したのは、朝鮮を侵略しようとする勢力、台湾を侵略しようとする勢力、インドシナを侵略しようとする勢力を弱化させようとするところにその目的があると思います。われわれと合意のもとにそうしたのではありません。周総理が訪ねてきたとき、日本の侵略勢力を阻止することについて一緒に討論しました。そしてそのとき、共同声明にもこの問題をいれました。貿易取引問題については、率直にいって日本のどういう会社が南朝鮮とどれだけ取引きしており、台湾とどれだけ取引きしているのか、インドシナ諸国とどれほど取引きしているかについて、われわれはつかんでおりません。中国の人たちは知っているかも知れませんが、われわれはこういう問題についてよく知っていません。そこで参考のために一度中国の人たちにたずねてみようと思っています。一線をひくことができるかどうかという問題ですが、わたしの考えでは線をひけない事情もありうると思います。これまでは日本との貿易がそれほど多くなかったので、この問題を重要視しませんでした。日本政府がわが国に対して敵視政策を取ってきたために、貿易を発展させることができませんでした。このような状態で日本との貿易に依存していては失敗することもありうるし、そうなれば、計画を遂行できないこともありうるので、日本との貿易問題を重要視しませんでした。われわれは平壌に熱暖房をいれるために大きな発電所を建設しましたが、そのときにも日本の商社と話し合いをしました。しかし、当時は、現在よりも情勢がきびしいときでした。日本の商社は、口では売るといいながら、政府に問い合わせて見なければならないとか、できるかどうかわからないなどといいました。そこでわれわれはやむなく西ドイツから発電機を買入れなければなりませんでした。われわれとしては、西ドイツから買おうと日本から買おうと、ポンドやドルが支出されることにかわりありません。いままで日本の会社とは大きな取引きはありませんでした。あったとすれば小さな取引きだけです。もしも日本政府がわが国との貿易の道を開こうというならば、われわれも政策をかえることはできます。政府で日本との貿易額をどれほどふやすべきかという問題を検討することもできます。
 これまでこのような問題を討論したことはありません。わが国は日本との貿易が多くないので中国のように条件をつけたりしませんでした。もし日本政府がわが国と貿易をおこなう可能性のあることが確実になれば、政府でこの問題をあらためて討議するようになるでしょう。以前は、主に共産党・社会党系の商社と小さな取引きをしただけです。ところが今年になってはじめて自民党系の財界人数名がわが国を訪問しました。最近その報告を聞きましたが、わが方からかれらにいくつかの工場の設備問題を出したようです。かれらはそれが可能であるといい、合意書までつくって帰りました。かれらはわが国の技術者を招いて、工場を見せるといいました。技術者の入国査証手続きをとるために写真を送ってほしいというので写真も送りました。結果がどうなるかは、しばらく様子をみなければなりません。かれらは台湾、南朝鮮などをすでにおとずれており、わが国には初めて来たのですが、蒋介石、朴正熙からわれわれについての悪宣伝を相当聞かされたようです。こんどかれらは中国を通ってわが国に来ましたが、わが国の外務省に自分たちの身辺の安全を保障してほしいという要求までだしました。最近の通信をみると、南朝鮮当局はかれらがわが国を訪問したことをどうして知ったのか、日本政府に抗議したそうです。ともかく、結果は待ってみなければわかりませんが、こんご試験的にこうしてみて、もし日本政府が、わが国と貿易する可能性をみせるならば、わが政府としても検討してみます。そして中国側とも話し合って歩調をあわせるようにします。わたしがすでにのべたように、日本政府がわが国との貿易に大きな制限を加えない限り、われわれとしては反対しないでしょう。むしろやるからには、広くやりたいと思います。ひと言でいって、日本との貿易をどうすべきかという問題は、まだ党中央委員会や内閣で検討したことがないので、これから情況をみながら、検討してみたいと考えています。おそらく、社会主義諸国の中で日本との貿易額がいちばん大きいのは中国ではないかと思います。われわれが日本軍国主義に反対することについての論説を発表したあと、ソ連も日本との関係について神経をつかいながら、ソ連政府が日本と貿易を行なう問題についてどのように考えているのかと問合わせてきました。われわれは貿易をすることには反対しないと答えました。今年、ソ連の人たちがわが国にきましたが、かれらにも思想闘争は思想闘争であり、貿易は貿易であるといいました。

小森 金日成首相からきわめて重大なお話をうかがいました。また、首相は、昨日、教条主義はとらないといわれましたが、そのことばがわたしの耳にまだ残っています。そして、いま、首相は貿易についても弾力性のある政策をとるというお話をされました。ところで、さきほど日本軍兵士のなかにもいい人がいたというお話がありましたが、日本の資本家のなかにも、もちろん資本家というわくのなかではありますが、いわばよい資本家と悪い資本家がいるといえます。もし将来、経済使節団が貴国を訪問するとすれば、その使節団の主要メンバーはさきに申し上げた美濃部知事の友人たちでありましょう。かれらは、日本独占資本家のなかでも、もっとも代表的な資本家です。しかし、かれらは、日本の資本家のなかでも比較的自由主義的傾向というか、進歩的な思考方法をもつといわれている「経済同友会」の指導者たちでもあります。
 今年、自民党系の資本家が貴国を訪問したそうですが、わたしは、その人の名前は知りませんが、こんど美濃部知事が帰って、さきほど首相がいわれたような内容を財界の指導者たちに話せば、かれらは朝鮮民主主義人民共和国に行ってみたいというかも知れません。この場合、美濃部知事が有力な財界人で使節団をつくり、貴国に派遣したいといえば、うけ入れて下さるでしょうか。

主席 うけ入れます。
美濃部 小森君もいいましたが、たしかにわたしは、社会党と共産党の支援をうけている者ですが、同時に資本家とも多少の関係があります。このたび、朝鮮に向かう前に、日本航空の社長がわたしのところに来て、機会があれば朝鮮民主主義人民共和国と中国の指導者の方々とあって日本の航空機と両国の航空機の相互飛行についてどう考えているのか、一度おたずね下さいとたのまれました。すなわち、日本の旅客機が平壌飛行場に来るとともに朝鮮の旅客機も東京の羽田飛行場に来るようにしようというものです。わたしは彼に、それはまだ人間の往来問題も解決がむずかしい状況のもとで、これをとび越えて飛行機の往来から手をつけようというのはあまり早すぎる、このようにいってやりました。すると彼は、人間の自由往来が実現した場合は、飛行機の相互往来が可能なのかどうかを確かめて欲しいといいました。彼は、機会があれば一度、おたずねしてほしいといっていましたが、ちょうど今日は、その機会だと思い、申しあげる次第です。

主席 全般的にみて、かれがそういう話をしたのは、何もよくない意図からではないと思います。なぜならば、これは結局、日本政府のわが国にたいする非友好的な敵視政策を排斥する運動のひとつのあらわれであるからです。そういう考えが悪いものだとは思いません。それを実現させるために、日本反動政府に圧力を加え、かれらがわが国にたいする敵視政策を止めるよう闘争することはよいことだと思います。通信によれば、中国と日本の間に国際電話が開通し、24時間通話できるようになったということですが、これもよいことだと思います。わたしは、航空会社の意図は悪くないと思いますし、日本政府の立場がどうであるのかは、しばらく様子をみなければならないと思います。

小森 よくわかりました。貿易問題と関連して、重要な問題をもうひとつ申しあげたいと思います。いま日本政府としては、朝鮮民主主義人民共和国と貿易する用意があると公式には言いにくい立場でありましょう。日本政府は、なかなかそういうことをいいそうにありません。しかし、日本政府が必ずしも公式態度を表明せずとも黙認するという前提のもとで、日本と大きな貿易をすすめる問題について意見交換することができるとお考えでしょうか。金日成首相は、昨日、日本との貿易問題は日本政府の態度にかかっているといわれましたが、政府が見ぬふりをして黙認する場合、日本と貿易することができるとお認めでしょうか。わたしがこのようなことをうかがうのは、この問題にたいする理解をいっそう正しくするためです。

主席 そうすることも悪くはないと思います。日本政府もそのようにしていこうという意図ではないかと思います。南朝鮮もしきりにうるさくいうので、そういうふうに黙認する方向でやろうということも考えられます。朝鮮大学校の認可問題にしてもそうだと思います。日本政府が法的には、朝鮮大学校の認可を認められないとしながらも、現在、実質的には黙認しています。日本政府は、かつてわが国にたいして犯した罪があまりにも多く、それを一度に改めることはむずかしいので、あるものは黙認しながら徐々に改めていこうという方針をとっているようです。いくらか前に『朝日新聞』後藤編集局長がわたしにつぎのような質問をしました。国連での中国代表権問題で、アメリカと日本が手を組んでいることについてどう思うかと聞きました。そこでわたしは、こう答えました。アメリカは?介石のような手先が多いだけに、かれらのまえでは体面も保たねばならないので、その場ですぐに出て行けなどとはいえないだろう、国際潮流によって問題が解決されてしまえば、大勢がそうなのだから仕方がないではないか、それでもわたしはおまえを支持してやったではないか、こういうふうにいおうとしているのだ、こういうわけでアメリカは二重の案を出しているのだ、と、わたしは後藤編集局長にいいました。実際、ニクソンは体面を維持するのさえむずかしくなりました。通信によると、アメリカは、こんどの国連総会で中国問題についての投票のさい、八つのアフリカ諸国が約束を破って中国を支持する投票をしたといって非難しました。しかし、それらの国は共同で投票しようと約束したことはないと反ばくしました。これをみても、アメリカはいましかたなしに、そうした政策をとっているのではないかと考えられます。ニクソンが中国を訪問すること自体が、すでに蒋介石追出しに拍車をかけたものではありませんか。日本政府の政策もそうだろうと思います。もし日本政府が美濃部先生のこのたびのわが国訪問を絶対に反対する立場であれば、どうして南朝鮮が反対したにもかかわらず黙認したのでしょうか。

美濃部 長時間にわたって有益なお話をして下さいましてまことにありがとうございます。