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見出し特別供覧「金日成主席と日本」    84.『世界』の愛読者   
日)

84.『世界』の愛読者

 1975年11月6日、金日成主席は早稲田大学助教授の西川潤氏一行と会見し、長時間、質問に答えた。氏は事前に主席に質問状を提出していた。質問は、労働党創立30周年にあたっての主席の感想、6カ年計画の繰上げ達成上遭遇した障害の克服方途、朝鮮の経済の展望、経済の交流と相互協力に対する主席の見解、主席の第三世界諸国訪問時の印象、国連総会における朝鮮問題審議についての見解、朝鮮統一問題の見通し、日朝関係問題など多岐にわたっていた。
 氏は主席の接見を受けることになった時、自分があまりにも複雑な問題をいろいろと提起したのは行き過ぎた行為ではなかったろうかと自省した。自省しながらも、主席が自分のぶしつけな質問にどう対応してくれるだろうかと緊張した。しかし、氏の恐懼はたちまちにして安堵に変わった。
 主席は氏をにこやかな微笑をもって迎え入れ、なんの屈託もなく話し始めたのである。
 「お元気ですか。 緑川亨先生と安江良介先生もお元気ですか。わたしはいまでも、両先生とお会いしたときのことをはっきりと覚えています。あなたがたにお会いするのは今日が初めてですが、緑川亨先生と安江良介先生にお会いしているような深い親しみを覚えます」。
 こう挨拶した主席は、以前に朝鮮を訪れた日本の学者たちの名をあげ、彼らの著書を話題にのぼせた。一瞬西川氏は、自分が親しく付き合っている経済学者と話しているような錯覚を起こした。主席は日本人学者の著書を熟読していたのである。主席は太い声で話を続けた。
 「安江良介先生の朝鮮訪問後、雑誌『世界』は『韓国からの通信』という文章を毎号掲載し、南朝鮮社会の腐敗相とファッショの実態を暴露しています。これは日本人民のみならず世界人民の闘争に大きく貢献するものです。わたしはこれを非常にうれしく思っています。世界に広く知られている岩波書店は、進歩的な書籍を数多く発行する出版社として、朝鮮人民と日本人民の友好のために積極的に努力しており、世界の平和と人民の自由と独立のために活躍しています。わたしはこれに対して、緑川亨先生と安江良介先生、そしてあなたがたに謝意を表します。このたび両先生から寄せられた手紙をうれしく拝見しました。帰国されたら、両先生にわたしからの挨拶をお伝えください」 。
 主席は『世界』を注意深く読んでいるようであった。
 「雑誌『世界』は、われわれの知らない資料を多く載せています。『世界』に掲載される文章は興味深いので、わたしは毎号それを翻訳文で読んでいます。ときには、出版部門の活動家に『世界』に載っている文章をまとめて編集するよう指示することもあります。わたしは、南朝鮮の傀儡一味が幼児を外国へ売りとばしているという『世界』の文章を読んで、憤慨のあまりそれをわが党中央委員会の政治委員会で会読させました」。
 そこまでしているのかと西川氏は感嘆した。
 「さきごろアルジェリアへ行ってみると、南朝鮮から幼女を買いとって育てているフランス婦人がいました。子どもは、今では大きくなって物心がつくようになりました。朝鮮から金日成主席が来るというので、その子がわたしに一度会ってみたいと養母に話したそうです。養母は子どもに向かって、おまえのような子が金日成主席にお会いできるものか、金日成主席は忙しくて時間もないはずだし、それにアルジェリア政府もそれを許さないだろう、だから、あとで朝鮮大使館にでも一度訪ねてみるようにと言ったそうです。わたしはこの話を聞いて、あなたがたが出している『世界』を今一度思いおこしました。そのときわたしは、わが民族の子どもたちが世界の至る所に売られ、異国人の家庭で暮らしていることに対し、たいへん悲痛な感に打たれました。朝鮮の多くの幼児が、フランス、イタリア、スウェーデン、デンマークなどヨーロッパの各国に売られていきました。南朝鮮に巣くっている無頼漢らのために、わが民族にこのような不幸がふりかかっているのです。
民族の内部に売国奴がいると、こういうことになるのです。あなたがたの正義の声はたいへん立派なものです。わたしは、わが民族の不幸に同情し、正義感をもって朝鮮人民の闘争に積極的な支持を寄せていることに対し、安江良介先生をはじめ『世界』誌のみなさんに心から謝意を表します」。