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クメール美術とフランス極東学院 (2013年3月1日)

 先日、工事で休館していた東京国立博物館東洋館(上野)がリニューアルオープンしたというので足を運んだ。展示の目玉は、アンコール遺跡群などでなじみが深いクメールの彫刻だった。石造彫刻18件の展示で、小規模ながら
クメール美術を日本で身近に鑑賞できた。「乗り物の神」であるガルダ、天女・アプサラス……。アンコール遺跡群の片隅にでもいるような気分が味わえた。

 メコン川に注ぐトンレサップ川、トンレサップ湖は、神々から授かった自然の恵みをもとに見事な「小宇宙」を
創造した。その中心がクメール王朝(アンコール王朝)時代に造営されたアンコール・ワットである。それを取り巻く遺跡群は、ほぼ東京23区と同じ面積に広がっている。王国は、9世紀から約600年間にわたって続いた。豊かな自然の中にヒンドゥー、仏教文化と土着文化が融合、カンボジアの大地に人類の英知が集まり、大輪の花が、そこに咲いた。

 なぜその時代の彫刻が、いま東京国立博物館にあるのか。話は第二次大戦末期の1944年にさかのぼる。 仏領インドシナのハノイにあったフランス極東学院と東京帝室博物館(当時)の間で美術品を交換した。日本からは山水図など美術品、極東学院からは、石造彫刻、陶器などが贈られた。しかし、戦後になってもこのクメールの美術品がまとめて展示される機会は数回しかなかったという。カンボジア美術に、日本の関心がそれほど向けられなかったからだという。

 それにしても、こうした場面で、フランス極東学院の名前に接するとは思わなかった。同学院は、科学的、文化的、専門的な公共研究機関であり、東南アジア、東アジア、南アジアの文明研究が使命だ。1898年、フランスの植民地統治下のサイゴン(現ホーチミン市)に設立されたインドシナ考古調査団が前身で、その後、極東学院と改称された。1957年にフランスがインドシナから撤退するなどで、いまは当時ほど大きな力はないとされるが、パリの本部を中心に東南アジア各国に研究センター、支所が置かれ、永続的な研究がおこなわれているという。その極東学院の業績の一つにベトナムのダナンにある「チャム彫刻博物館」を挙げなければならない。

 「アンコール、インドネシアのボロブドゥールと並ぶ東南アジアの代表的な古代王朝」といわれるチャンパ王国時代の彫刻、石像などを集めた博物館だ。1915年、極東学院のアンリ・パラマンティエ教授の尽力によって建てられた博物館で、発掘調査で発見された7世紀後半から16世紀ごろの遺物が展示されている。ここに何度か行き、鑑賞したがヒンドゥー、仏教など「宗教のるつぼ」だったベトナム沿岸地域に文化の花を咲かせたチャンパ王国の感性・創造性がにじみ出る美術品に感心した。

 東京国立博物館東洋館での今回の展示で目を引いたのは、ナーガ(蛇神)の上で座禅を組む仏陀を表した「ナーガ上の仏坐像」、太鼓腹の人間の体に象の頭が付いたヒンドゥー教の神を表した「ガネ―シャ坐像」だ。精緻で細かく、その一方で、大胆な表現、ユーモラス、そして、奥深い宗教性が感じられる。
こうした逸品が、戦争中にフランス極東学院との縁で日本に運ばれたことの意外性に驚く。

 最近では、チャンパ遺跡やアンコール遺跡の調査研究、修復保存、その支援に、研究者をはじめとする日本人の貢献も大きい。この展示を機に、東南アジアの古代王朝の文化、美術に関心を持つ人々が増えてくれたら、と思う。

 





                                         







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