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人工国家と文化    (2013年5月11日)

 






ギルマン・バラックス


 シンガポールは、1人当たりの国民総所得が日本を超え、アジアでは際立って豊かな国である。「IT(情報技術)先進国」と呼ばれ、国際競争力はトップクラス。高層ビルが立ち並び、国際貿易・金融センターとして発展してきた。歴代政権は「経済成長、そして経済成長」をスローガンに、その実現のために資本と人材を集中投下してきた。
 1965年にマレーシアから分離独立したシンガポール。資源がなく、面積は淡路島程度の広さしかない、弱小の人工国家を支え、発展させてきたのは、徹底的な能力選別教育で育てられたエリート群である。この豊かなシンガポールにとって、いま大きな問題は、「人材の先細り」である。「建国の父」とも言われるリー・クアンユー元首相は、今年3月、移民受け入れに対して消極的な日本を引き合いに出しながら、人口減少が続くシンガポール社会に警鐘を鳴らした。

 シンガポールの合計特殊出生率は日本並みに低く、2025年には人口の減少が始まる見通しだという。高齢化も進行し、2050年には50歳以上が人口の半分を占める計算になる。 元首相は「移民を拒めば、すべてが無になる」とし、優秀な移民を選んで受け入れ、人口を増やす成長戦略の必要性を強調したのだ。2月にシンガポールの国会が承認した「人口白書」では、毎年永住者を3万人受け入れるなどで現在の人口530万人を2030年までに1.3倍の690万人に増やす計画を打ち出している。元首相は、移民政策の転換がなければ「あと20年で人口が半減し、さらに人口はその半分になる」と危機感を募らせた。
 しかし、こうした高齢化、少子化、人口減少は、シンガポールだけの問題ではない。日本を筆頭に東アジアの国々が抱える共通の課題だ。2年後に分離独立から50周年を迎えるシンガポールにとって、目に見えないが、最も難しい課題は、文化的アイデンティティーの模索・構築ではなかろうか。シンガポールは、英国の植民地となり、アジア各地からの移民が中心となり社会が形成された。独立後もリー・クアンユー元首相ら一部エリートが国家デザインを描き、強権により、そのバラバラな社会をまとめあげた。人工国家の所以である。シンガポールは、古い建国の歴史、文化的・民族的伝統を持つタイやベトナムなどの国々と違い、国民の間における文化的共通基盤が貧弱といってよいだろう。

 「シンガポールには、文化と伝統がない。深遠な文化と伝統、それらに支えられた強い自信こそが技術革新を可能にする。このままではシンガポールは日中韓やインドに技術革新で遅れをとるだろう」。これは、5年ほど前に毎日新聞に載った「人工国家」というタイトルのコラムである。この指摘は、多民族、多言語、多宗教を抱えるシンガポールの指導者にとって「頂門の一針」だと思う。

 最近、シンガポールの街角で気がつくのは「現代美術」である。「マーライオン」があるベイエリアの南西に「ギルマン・バラックス」がオープンした。英国植民地時代の軍用地跡(6.4ヘクタール)を整備した「美術センター」だ。現代美術展や各種イベントを行い、現代美術の発信拠点になるように、と期待されている。
 経済開発庁(EBC)が多額の費用をかけ、古い建物を改装し、日本や中国、フィリピン、アメリカなど9カ国の現代美術画廊を誘致したもので、シンガポールが国を挙げて、現代美術振興政策を進めているのだ。2年後には国立のアートギャラリーも開館するという。
 このシンガポールの文化振興の動きに現代美術関係者は「比較的歴史が浅い国々の人々がアイデンティティーを確認する手段としても、美術は重視されている」と指摘している。「文化」に苦労している人工国家の試みに注目したい。



                                         







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